祖先であるタルホコムギが育った土壌環境が、その子孫にあたる一次合成コムギ系統の根の形質や共生微生物に関係していることが分かりました。
- 2025/10/02
- 研究成果
Variation in Root Traits and Root-Endophyte Interactions in Primary Synthetic Wheat Derived from Aegilops tauschii Collected from Diverse Soil Types
Ahmed Khaled Hassan Mohammedali, Nasrein Mohamed Kamal, Yasir Serag Alnor Gorafi, Izzat Sidahmed Ali Tahir, Hisashi Tsujimoto and Takeshi Taniguchi
Journal: agronomy
コムギの生産性向上においては、気候変動などの環境ストレスに対する耐性強化が重要であり、そのためには野生種が有する有用形質の解明と利用が求められています。本研究では、野生種タルホコムギ(Aegilops tauschii)の根の形質と、それに関連する共生菌および病原菌との相互作用に着目しました。
材料として、タルホコムギ36系統、デュラムコムギ(Langdon, LNG)、両者を交配して得られた一次合成コムギ(PS)、および六倍体パンコムギを用いた。各系統の根の長さやバイオマスを測定するとともに、アーバスキュラー菌根菌(AMF)および Serendipita indica の定着率、ならびに病原菌 Alternaria 属菌の感染率を評価しました(図1)。
その結果、PS系統には根の発達程度や菌類との関係性に大きな変異が認められました。クラスター解析により、根がよく発達し、AMFや S. indica の定着率が高い一方、Alternaria 属菌の感染率が低いグループが検出されました(図2)。また、同一の土壌クラスから得られたタルホコムギを祖先に持つPS系統は、類似した根形質を示す傾向が明らかになりました。
これらの結果は、祖先種が育った土壌クラスが根の形質とその多様性に強く影響することを示唆しています。特に、カンビソルなど根の発達が良好であった土壌由来の系統は、気候耐性の高いコムギ育種に有望な資源であると考えられます。

図1.Keyence VHXデジタル顕微鏡で見たコムギ根内のアーバスキュラー菌根菌(AMF)とSerendipita indica:(A) AMFの樹枝状体、(B) AMFの小胞、(C) AMFの胞子、(D) AMFとS.indicaの胞子、S.indicaの細胞間(E)および細胞内(F)の構造

図2.コムギ系統(36の一次合成コムギ系統、Landon、Norin 61)の形質に基づいた階層的クラスタリングヒートマップ。グループ列は4つの系統グループ、土壌クラス列は、Ae. tauschiiを採取したGPS座標から割り当てた土壌クラスを示しています(NA:土壌クラス不明)。