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干ばつがパンコムギ種子に及ぼす分子的影響を解明し、乾燥被害による減収、小麦粉品質の低下を食い止める。

Metabolomic and transcriptomic profiling during wheat seed development under progressive drought conditions
Ryosuke Mega, June-Sik Kim, Hiroyuki Tanaka, Takayoshi Ishii, Fumitaka Abe, Masanori Okamoto

Journal: Scientific Reports

近年の気候変動によるパンコムギ生産地を直撃する干ばつの影響は、農作物減収の主な要因となっており、世界で増え続ける人口を養うため、食糧の生産と確保が懸念されています。また、パンコムギは種子成熟期にストレスがかかると、結実する種子の品質が損なわれ、商品価値が下がってしまうことが懸念されています。耐乾性に関与するアブシシン酸(ABA)受容体をパンコムギの植物体内で多く作らせた耐乾性系統(TaPYLox)と野生型系統に対して、開花1週間後の植物に乾燥ストレスを与えて、系統間での違いを、遺伝子発現、メタボローム解析、電子顕微鏡による細胞遺伝学的な解析で詳細に調べました。その結果、コムギの種子貯蔵タンパク質の主要構成アミノ酸であるプロリンに差が大きくでており、種子の形成に必要な成分の蓄積が、非ストレス下と変わらないことが重要であることが示唆されました。本研究成果は、干ばつ下においても品質を維持できるパンコムギ系統開発の際の育種目標となる形質について明らかにし、気候変動に対応できる系統開発に一石を投じると期待されます。

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図1開花時期に乾燥を与えたTaPYLox系統と野生型(コントロール)の種子の違い。

TaPYLox系統では乾燥を与えた後でも種子のサイズが湿潤区と比べてほとんど変わりがない。一方、野生型のコムギでは明らかな種子のしわ種子化が進んでいる。切片を作り、走査型電子顕微鏡でデンプン粒を観察すると、野生型では明らかにデンプンの形成状況が湿潤区と異なるが、TaPYLox系統では湿潤区に比較的近いデンプン形成の状態を保っている。