研究の背景

エチオピアにおける土壌侵食とその被害

土壌、水、植生等の自然資源の劣化は、エチオピアにおける最大の環境問題である。とくに農業生産の90%を生み出すエチオピア高地では降雨による土壌侵食(水食)が大きな問題となっており、エチオピア高地は世界的にも水食が最も激しい地域のひとつと言われる(図1)。水食によって、毎年表土が約15mmの速度で失われており、このままではおよそ100年でエチオピア高地の有効な土壌がすべて失われる(FAO, 1998)。

図1 USLEモデルにより推定された土壌侵食速度[ton/ha/year](GLADIS, 2011)

土壌侵食は、オンサイトとオフサイトの問題に分けることができる。オンサイトの問題とは侵食が生じるその場所で生じる問題のことで、土壌侵食にともない表層土壌の流亡による土壌肥沃度の低下、および土壌保水力の低下が生じる。その結果、土地生産力が減少し、作物収量が減少したり、ひどい場合には耕作ができなくなってしまう。一方、オフサイトの問題とは、侵食された土壌が河川を通じて下流域に及ぼす影響で、ダムや貯水池が土砂で埋もれてしまい、貯水可能量の減少や、洪水あるいは河川・湖沼の水質汚濁を引き起こす。

SLM(持続可能な土地管理)とは

乾燥地における砂漠化、土地劣化に対処する上で、近年、「持続可能な土地管理」とよばれるプロジェクトが世界で広く実施されている。持続可能な土地管理 (Sustainable Land Management: SLM) とは、適切な土壌や水の管理によって持続的な土地生産、生計の維持、環境の保全を実現する、技術や仕組みを包含した概念である。

エチオピアでは、SLMは、土壌・水保全のプロジェクトとして実行されることが一般的であり、具体的には、トレンチ(流水を留める溝)、ソイルバンド・ストーンバンド(等高線に沿った土堤・石積み)、チェックダム(貯砂堰堤)、斜面のテラス化、植林、ガリーの修復などが行われている。

本研究では次世代型SLMの開発を目的としている。次世代型SLMでは、高いレベルの土壌侵食削減効果、持続性・自律性・総合性の向上をめざす。

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