各種成果報告

グローバルCOEプログラム研究会 2011

グローバルCOEプログラム「乾燥地科学拠点の世界展開」では、研究を推進している各研究グループにおける研究成果発表を行うことにより、研究者・学生相互の知見を広げるとともに、研究活動の連携を図るため、定期的にプログラム研究会を開催しています。
 平成23年度は奇数月の第2金曜日に開催します。(変更の場合もあります。)
 興味のある方は、どなたでも参加できますので、ご来聴ください。

平成23年度研究会スケジュール

 

●平成23年度第5回グローバルCOEプログラム研究会  ポスター(クリック)

 日時:  平成24年1月20日(金) 13時30分~15時30分
 場所:  農学部 大セミナー室(1号館2階)
 内容:  分子育種グループ及び地球環境グループ研究発表
 タイトル・
発表者・
発表の概要: 
 1 「乾燥耐性野生作物の遺伝子を利用した乾燥耐性作物の分子育種」
田中 浄 (農学部 教授)
【概要】
分子育種グループでは、交配法と遺伝子組換え法を並行して乾燥耐性作物を開発している。交配法で乾燥耐性コムギを作出するために、コムギと交配可能であり、乾燥や塩ストレス等の種々の環境ストレス耐性を示す野生コムギ類縁体goat grass (タルホコムギAegilops tauschii )を利用して、乾燥耐性コムギの選抜、育種が試みられてきた。ただ、これまでの研究では、カスピ海南部の一つの地域に生息するgoat grassのみが使われてきた。Goat grassは地中海沿岸の比較的湿潤な地域から、乾燥地のタジキスタンや中国西北部まで広い範囲に分布することから、それぞれの種類において乾燥耐性遺伝子が質的、量的に違いがあることが予測される。私たちはこの広範な地域から、51種のgoat grassを採取し、より強い乾燥耐性をもつコムギの作出を試みた。
遺伝子組換え法で乾燥耐性作物を作出するためには、乾燥耐性にとって高効率な遺伝子であり、最終的な応用を考えた時に、他の研究者が使っていないオリジナルな遺伝子を利用することが重要である。そのような遺伝子を取得するために、乾燥地の主要作物で、乾燥に強いソルガム品種であるGadambalia、海浜植物ハマニンニク(Leymus mollis)、ストレス耐性イネ等から、種々の興味深い遺伝子を単離した。ケイ酸処理ソルガムが乾燥耐性を増すことから、ケイ酸誘導性遺伝子の単離も試みた。これらの遺伝子が乾燥耐性コムギの選抜、育種をするうえで有用な指標遺伝子として利用できることを示した。乾燥耐性に活性酸素消去系遺伝子が関連していることから、本遺伝子を高発現する作物を作出した。数種の遺伝子を高発現する遺伝子組換えジャガイモの作出方法を確立した。コムギの組換えについては、第1世代のゲノムへの導入に成功したが、第2世代以降への遺伝については現在確認中である。

図1.活性酸素消去酵素(グルタチオン還元酵素)過剰発現ポテトの乾燥耐性
 非組換えポテト 活性酸素消去酵素過剰発現(遺伝子組換え)ポテト 
 
活性酸素消去酵素(グルタチオン還元酵素)過剰発現ポテト(右)と非組換えポテトを乾燥ストレス(1週間水供給を停止)後、水供給し、その後2日目のポテトの生長の様子。赤矢印部分に葉の黄化が観察された。


図2.糖脂質合成酵素過剰発現タバコのリン欠乏耐性

  糖脂質合成酵素過剰発現(遺伝子組換えタバコ)  
非組換えタバコ 系列1  系列2

糖脂質合成酵素を過剰発現させたタバコ(右2つ)は非組換えタバコ(左)と比較した時に、塩ストレス耐性を示すとともに、リン欠乏に対しても耐性を示した。リン欠乏時に糖脂質がリン脂質の代替をすることで生体膜を保護したと推定した。


 2 「東アジアにおける2000年代のダスト(黄砂)多発化の原因 - 気候変動に伴う強風多発 vs. 砂漠化などに伴う地表面状態の変化」
黒崎 泰典 (乾燥地研究センター プロジェクト研究員)
【概要】
2000年以降、日本においてダスト(黄砂)が頻繁に観測されるようになったが、発生源であるモンゴル、中国の乾燥地におけるダスト多発の原因として「砂漠化などに伴う地表面状態の変化」と「気候変動に伴う強風多発」のどちらの寄与が大きいか明らかになっていなかった。
 ダスト発生とは強風によって土壌粒子が舞い上がる現象であるが、土壌粒子が舞い上がり始める風速(臨界風速)は土壌水分、土壌凍結、積雪分布、植生分布、植生種などの地表面状態によって異なる。すなわち、ダスト発生は「風の強さ」と「地表面状態(土壌粒子の舞い上がりやすさ)」によって決まるわけだが、風の強さが風速だけで表され、過去何十年にわたって気象台の風速計で計測されてきたのに対して、「地表面状態」には上述の様々な要素が存在し、これらをすべて長期間にわたって観測することが困難であること、これらの要素一つ一つと土壌粒子の舞い上がりやすさの関係が解明されていないことなど、課題が山積している。
 気象台で観測された現在天気データ(ダスト発生の有無が記録されている)と風速データを用いて、ダストが最も発生する4月について1990年代と2000年代のダスト発生頻度、強風発生頻度を計算した。また、現在天気と風速を組み合わせることで臨界風速の5パーセンタイル値を見積もり、これより地表面状態の変化を評価した。
 この解析より、草原地帯と耕作地帯(モンゴル、内モンゴル東部、中国東北地方)では地表面状態の変化がダスト多発化の主な原因であったのに対して、砂漠地帯(ゴビ砂漠、黄土高原西部)では風の変化がダスト多発化の主な原因であったことが明らかとなった。夏季降水量と年最大NDVI(正規化植生指数)の解析も行い、「枯れ草仮説」(夏に生長した植生が枯れ草として春まで残り、この枯れ草がダスト発生に影響している可能性)についての考察を行った。
 モンゴル草原域に位置するマンダルゴビ気象台データについての詳細解析および黄砂プロジェクトにおいて現地観測を予定しているツォクトオボーについての気象台データを用いた簡易解析についても話をする予定である。





        

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