各種成果報告

グローバルCOEプログラム研究会 2011

グローバルCOEプログラム「乾燥地科学拠点の世界展開」では、研究を推進している各研究グループにおける研究成果発表を行うことにより、研究者・学生相互の知見を広げるとともに、研究活動の連携を図るため、定期的にプログラム研究会を開催しています。
 平成23年度は奇数月の第2金曜日に開催します。(変更の場合もあります。)
 興味のある方は、どなたでも参加できますので、ご来聴ください。

平成23年度研究会スケジュール

 

●平成23年度第4回グローバルCOEプログラム研究会

 日時:  平成23年11月11日(金) 13時30分~15時30分
 場所:  農学部 大セミナー室(1号館2階)
 内容:  農業生産グループ及び環境修復グループ研究発表
 タイトル・
発表者・
発表の概要: 
 1 「乾燥地におけるリサイクル資材を用いた野菜栽培のための省力型定水位節水技術」
井上 光弘 (乾燥地研究センター 教授)
【概要】
乾燥地は水資源に制約され、農業に適した土地も少なく、砂質土壌も農地として利用されるようになった。しかし、砂質土壌は保水性と保肥力が乏しいので、適切な肥培管理と水管理が必要である。また、乾燥地でも野菜生産の要望が強くなった。さらに廃棄される資源をリサイクルしようとする機運も高まっている。リサイクル資材として、廃ガラスを再資源化した土壌改良材と廃タイヤを再資源化したゴム製多孔質浸潤型地中灌漑チューブを用い、乾燥地の持続的農業のために砂質土壌における節水型野菜栽培技術を開発した。グローバルCOEプログラム「乾燥地科学拠点の世帯展開」では、研究成果を活用した技術を世界各国に普及することが求められている。ここでは、その事例を紹介する。
乾燥地への適用事例として、モーリタニアの科学技術研究所内で供試作物にトマト(2008年)とオクラ(2009年)を用い実地試験を行った。飲料用廃ガラスの他にブラウン管やプラズマディスプレイから生成した土壌改良材も採用した。深さ30cmに埋設した土壌改良材は散水で固化することが特徴で無害で施工が容易であり、砂質土壌の浸透抑制効果があること、地中灌漑によって根圏の土壌水分量をより多く保つ機能があること、対照区と比較して収量増加が期待できることを明らかにした。
乾燥地への適用事例として、ケニア農業研究所・カトマニ研究センターでフダンソウ(2010年)を栽培し、実地試験を行った。安価なボールタップ定水位装置と廃タイヤを原料にしたゴム製多孔質浸潤型地中灌漑ホースを用いて、収量と水利用効率を求めた。定水位地中灌漑によって根圏の土壌水分量を適切に維持し、葉野菜の収量増加を期待できること、バケット方式を用いた場合、点滴灌漑よりも地中灌漑の方が節水になり、ゴム製ポーラスチューブの地中灌漑がさらに節水灌漑として有効であること、給水量と土壌水分量の推移に特異的な現象があることを明らかにした。
さらに、本研究の基礎となる「キャピラリーバリヤによる根群域の保水性向上と塩水侵入阻止」、「省力型定水位育苗・栽培灌漑技術」の最新情報(2011年)を紹介する。



 2 「塩生植物タマリスクの生態、生理と利用」
山中 典和 (乾燥地研究センター 教授)
【概要】
乾燥地では、塩類が地表に集積した塩類集積現象が各地でみられる。塩類集積が起きる原因は様々であるが、不適切な人間活動によって引き起こされる塩類集積は乾燥地における重要な環境問題であり、乾燥地で農業を行う上で大きな問題となっている。
このような、塩類が集積してしまった環境をどのように改善するか?または、塩類集積した場所でどのように緑化を行うかが、乾燥地での大きな課題となっている。
塩類が集積してしまった土地の改善には様々な方法があるが、塩類集積地での緑化で我々が注目しているのがタマリスクという植物である。タマリスクは東アジア、中央アジアからアフリカにかけての乾燥地に広く分布するギョリュウ科の低木または亜高木であり、世界中に50種類ほどが知られている。なかには、非常に美しい花を咲かせる種類もあり園芸的に利用されているものもある。
一般に塩類が地表に集積した場所でも生育できる植物を塩生植物と呼ぶが、タマリスクも塩性環境で生きられる独特の生理・生態的な特徴を持っている。特にタマリスクの場合は、通常の植物が吸収できないような塩水を根から吸収し、葉に存在する塩腺という部分から塩分を排出するという面白い性質を持っている。
このような、塩に耐性を持つタマリスクは塩類環境での緑化に有用な植物と考えられ、現地への応用にむけて、様々な研究を行ってきた。今回は研究の中で明らかになった、タマリスクの耐塩性と浸透調節物質の働き、塩腺の機能とタマリスクを通じた塩分の動態、タマリスクの根系分布及び根に存在する共生微生物相の特徴について総合的に紹介する。さらには現在アメリカで問題となっている侵入植物としてのタマリスク問題や、中国科学院と共同で進めているタマリスクの根に寄生するハマウツボ科の寄生植物についても紹介する。



写真:上 中国ウランブフ砂漠のタマリスク  下 タマリスクの塩腺から排出された塩



●平成23年度第3回グローバルCOEプログラム研究会

 日時:  平成23年9月9日(金) 13時30分~15時30分
 場所:  農学部 大セミナー室(1号館2階)
 内容:  保健医学グループ及び地球環境グループ研究発表
 タイトル・
発表者・
発表の概要: 
 1 「高用量の気管内投与黄砂粒子による慢性肺毒性についての病理学的研究」
 塩津 静香(農学部 獣医学科6年次)
【概要】
(背景)東アジア大陸から発生した黄砂は、近年、頻度、量ともに増加しており、人間と動物双方の健康に悪影響を与える大気汚染の要因の一つとして懸念されている。黄砂は主成分の一つにシリカ(二酸化ケイ素)を含んでいる。シリカの持続的職業曝露によって惹起される珪肺症では、慢性肉芽腫性炎症巣の形成が認められる。しかし、黄砂粒子による慢性毒性像はまだ明らかにされていない。本教室ではこれまでに、黄砂粒子がマウスの肺に急性炎症を惹起することを示した (Naota et al., Toxicol. Pathol. 38:1099-1110, 2011)。本研究の目的は、黄砂粒子が呼吸器系に及ぼす慢性毒性を病理学的に明らかにすることである。
(材料及び方法)ICRマウスに生理食塩水0.05 mlに懸濁した滅菌処理済み黄砂粒子(ゼネラルサイエンス社、中国砂漠系標準試料 CJ-2)800, 3000 μgを気管内投与し、24時間、1週間、1カ月および3カ月後の肺と肺門リンパ節の組織学的検索を行った。
(結果)肺の組織学的検索において、黄砂粒子を中心とする炎症およびその炎症パターンの経時的な変化が確認された。24時間では好中球を主体とした多巣状性炎症巣が形成されていた。1週間では線維芽細胞様細胞の出現が著明で、微細粒子含有マクロファージとともに炎症巣の主体となっていた。1カ月および3カ月では、肺胞内に散在する黄砂粒子に対する炎症反応は乏しいものであった。3カ月では、黄砂粒子周囲に多核巨細胞を伴う肉芽腫の形成が時折見られた。リンパ節では、1カ月後から微細粒子含有マクロファージの出現、そして3カ月後にはその集簇が見られた。
(総括)長期間経過した場合、黄砂粒子によって肺と肺門リンパ節に肉芽腫性病変が形成される可能性があることが示された。
 2 「モンゴル国における半乾燥草原の過放牧地に群落形成するキク科Artemisia adamsiiの土壌理化学性の特性」
 西原 英治 (農学部 准教授)
【概要】
 モンゴル国の国土の約8割に草原が広がっており、そこでは古くから放牧業が行われ、現在も主要産業となっている。モンゴルの草原は薄いA層によって生産性が保たれており、過放牧などの酷使を受けるとB層が露出し、草原の荒廃につながる繊細な系である。元来、首都ウランバートル周辺では、Leymus chinensisやStipa krylovii等のイネ科植物が優占種であったが、近年この地域において過放牧からの草原の劣化指標種であるArtemisia属、特にA. adamsiiはパッチ状に進入し、地下茎と種子から増殖し繁茂している。このA. adamsiiの家畜への嗜好性は低く、つまりこの種の繁茂は草原の牧養力を低下させる原因になっている。そこで本研究では、A. adamsii群落下土壌および隣接する他種群落下の土壌の理化学性を比較し、A. adamsii群落の草原土壌へ与える影響を調査した。
 この結果、土壌EC、カリウムイオン濃度、カルシウムイオン濃度はA.adamsii群落の中心で最も高くなり、特に土壌EC、とカリウムイオン濃度で顕著になった.多くのL.chinensis群落では、多くの調査区でA.adamsii群落の南側の地点においての土壌養分濃度が多く含まれていた.土壌ECの上昇の要因として、家畜の排せつによる養分富化、枯死したA.adamsiiの植物体からのカリウムを中心とする養分の溶出などが考えられる、群落の南側で土壌EC、土壌カリウムイオンが多くなった要因として、モンゴル国の気候の特徴に挙げられる北西からの卓越風が考えられた.A.adamsii群落中心土壌に多く含まれる養分が、風による影響で群落の南側に運ばれていることが示唆された.この現象は土壌ECとカリウムイオンで顕著に認められ、重炭酸イオン、土壌全炭素でも一部の調査区で認められたが、他の土壌養分含量には認められなかった.A.adamsiiは土壌の養分が増加した地点において急速に増殖することから、今後、A.adamsiiの群落が南側のL.chiennsis群落に侵入していく可能性が予想される. 
 モンゴル国の土壌は粗粒質な母材と、乾燥条件により、塩類化、風食、水食を受けやすい(久馬、 2001a).また植生の裸地化は土壌の風食を加速させ、土壌肥沃度の低下だけでなく、黄砂の増加にもつながることから、地表の露出を抑制する管理が重要となる.また、風食による土壌養分の移動が生じた場合、黄砂の増加だけでなく、A.adamsiiのような草原劣化指標種の群落が拡大する可能性が示唆された。


●平成23年度第2回グローバルCOEプログラム研究会 

 日時:  平成23年7月8日(金) 13時30分~15時30分
 場所:  農学部 会議室(2号館2階)
 内容:  分子育種グループ及び農業生産グループ研究発表
 タイトル・
発表者・
発表の概要: 
 1 「強光ストレス障害と乾燥耐性作物の作出」
 田中 浄(農学部 教授)
【概要】
 植物は光のエネルギーを利用して、無機物から有機物を作るが、過剰の光エネルギーは活性酸素による酸化ストレス(光酸化ストレス)を引き起こし、植物に致命的な障害を与える。強光ストレスをもたらす光強度は環境条件で異なる。植物は、水欠乏、高塩ストレス、栄養ストレスを受けると弱い光でも強光ストレスを受ける。

 光エネルギーの使い方としては1)光合成電子伝達系、 2)ATP生産(循環回路と非循環回路)、 3)蛍光、リン光、熱放射 があるが、それだけでは不十分で、それ以外の余剰光エネルギーの発散(植物の強光ストレス耐性機構)として、 1)光呼吸経路 、2)D1タンパク質の合成と分解、3)活性酸素消去系、4)キサントフィル回路(Nonphotochimical quenching: NPQ)が知られている。 これらの強光ストレス耐性に関する研究の現状を紹介するとともに、私の研究室で行われてきた活性酸素消去系遺伝子を用いた乾燥耐性作物の作出について発表する。活性酸素は直接に酵素反応を阻害して、植物の代謝を阻害して、植物に甚大な障害を与える。また、活性酸素は核酸、脂質、タンパク質を酸化、変性するが、これらの変性物質の分解、解毒に関わる酵素が活性酸素障害緩和に関与することを示した。
 2 「塩類集積土壌のPhytoremediation ~中国山東省東営における実証試験の現況報告~」
 山田 美奈(農学部 プロジェクト研究員)
【概要】
 世界の総人口は増加の一途をたどる一方、塩類集積土壌は急速に拡大している。よって軽~中度の塩類集積土壌の農業利用、生産性の向上のために合理的な除塩法の確立は重要な研究課題である。除塩法のひとつとして、植物にNaを吸収させ土壌を修復するPhytoremediationの実証試験を2010年末から中国山東省東営において開始した。試験圃場は黄河河口に広がる約50万平方km、日本の国土の1.3倍の広大な塩類集積土壌内にある。この土地では耐塩性の強いワタの栽培が行われているが、ワタに替わる換金性の高い野菜やバイオエタノールの原料となるような作物に対するニーズがある。
 2010年11月に収穫期のワタ圃場を調査したところ、表層土壌の電気伝導度とワタの草丈に強い相関があった。そこで、ワタが生育できない場所と良好に生育する場所を含む約30m×130mを借り受けた。本研究では、耐塩性の強い植物のうち、Naを集積する有益な作物や飼料を用い、収益を上げながら土壌を修復していく技術の確立を目的としている。供試植物はアカザ科の*Suaeda salsa*、フダンソウ、テーブルビート、ホウキグサをPhytoremediationの候補とし、同じ科のホウレンソウを対照とした。さらにワタとの比較も行う。塩集積度合が異なる土壌において、最大の除塩能が発揮できる植物の選抜のために、6種を5段階の塩集積度合、3反復の計90プロットを圃場内に設計した。4月下旬に圃場を設営、播種、5月中旬に発芽状況の確認と土壌の塩集積度合の測定、5月下旬から6月上旬に高塩区への移植等を行い、現在進行中である。ここに至るまでの経緯を報告し、広くご指導を仰ぎたい。


●平成23年度第1回グローバルCOEプログラム研究会

 日時:  平成23年5月13日(金) 13時30分~15時30分
 場所:  農学部 大セミナー室(1号館2階)
 内容:  保健医学グループ及び環境修復グループ研究発表
 タイトル・
発表者・
発表の概要: 
 1  「黄砂の生体影響:モンゴル遊牧民に対する砂塵嵐の長期的影響」
 穆 浩生 (医学部 プロジェクト研究員)
【概要】
 黄砂の生体影響を検証するには、砂塵嵐の人命被害、疾患の発症や憎悪をもたらす健康被害や身体的・精神的健康に対する長期的影響を考える必要がある。2008年5月モンゴル中東部で発生した砂嵐と雪をともなった風(砂塵嵐)は、人や家畜の大量死につながる大災害をもたらした。本研究では、モンゴル遊牧民に対する砂塵嵐の長期的影響を明らかにするため、災害発生の1年後に、被災地住民を対象にした個別面接により健康影響について調査した。調査内容は、曝露の有無と健康関連QOL(身体的・精神的健康度)と自覚症状であった。
 曝露評価は、当該砂塵嵐に遭遇した対象者を「曝露あり」とし、遭遇していなかった対象者を「曝露なし」とし、曝露の有無と健康関連QOLおよび自覚症状との関連性について検討した。解析は、性・年齢・職業で調整した。その結果、曝露群は非曝露群に比べQOLは低値であった。多変量解析結果においても曝露の有無と健康関連QOLとの関連性がみられた(β=-0.260、=0.085)。このことから砂塵嵐の長期的影響として、QOL低下の可能性が検証されたといえる。しかし、自覚症状については有意な関連性は認められなかった。QOL低下の要因としては、心理的恐怖感、財産の損失、外傷による後遺障害などが推察される。QOLの改善のためには、災害救助はもとより、巡回医療、健康相談、心のケアなどを含めた包括的支援が求められる。
 2  「塩生植物・マングローブの浸透調整」
 岩永 史子 (乾燥地研究センター プロジェクト研究員)
【概要】
 マングローブは熱帯および亜熱帯の潮間帯に成立し、その高い生物多様性と生産性から世界各地で保護・管理の対象となっている。西アジアおよびアフリカ地域においても、マングローブ樹種を用いた沙地沿岸部の造林が広く行われており、マングローブの生理生態的特性の把握が求められている。日本国内に生育するマングローブ樹種は、世界各地に広く分布するヒルギダマシを含む5科7種である。本研究発表では沖縄県西表島・沿岸部に生育するマングローブ樹種4種の耐塩性比較を浸透調整物質の蓄積量から行った。調査は西表島・後良川および前良川流域に成立したマングローブ林で、河川上流から河口にかけて流水中の塩濃度変化とヤエヤマヒルギおよびオヒルギの葉に含まれる浸透調整物質を比較した。また河口付近の高塩濃度環境に生育するマングローブ4種において同様の調査を行った。その結果、河川流水中の塩濃度変化に対して、ヤエヤマヒルギとオヒルギで顕著な葉内Na濃度の変化は認められず、浸透調整物質蓄積に変化は認められなかった。このことは根におけるNaの吸収抑制や植物体内でのNa隔離機能がこれらの種で働いていることを示唆した。またもっとも流水中の塩濃度が高い地域に生育するヒルギダマシで高いベタイン蓄積量が認められ、葉に塩腺を有するヒルギダマシはベタインの蓄積によって塩ストレスを回避していることが示された。


        

 

 

 

 

鳥取大学トップ 乾燥地研究センター