山本福壽元特任教授、山中典和教授、岩永史子講師らの論文がScientific Reportsに掲載されました。
中東を中心とした乾燥地に育つニュウコウジュからとれる乳香(フランキンセンス)は樹幹の病傷害部からの分泌樹脂で、古くからイスラム教やキリスト教の宗教儀式に不可欠な香料である。近年ではアロマセラピーの普及により需要が拡大しつつあるが、樹木の育成難、低生産性等から供給は減少している。乳香分泌は樹幹の病傷害応答であり、刺激により生合成されるシグナル伝達物質(STS:エチレン、ジャスモン酸、サリチル酸)の関与が予想され、特にSTSの相互作用は乳香分泌機構の鍵と考えられる。今回オマーンのスルタン・カブース大学実験農場にて、ニュウコウジュの幹にエチレン放出性化合物のエスレル、ジャスモン酸メチル、サリチル酸ナトリウム、およびこれらの化合物の組み合わせを含む各種ラノリンペーストを、幹の剥皮傷に塗布した。一定期間後、各傷口から分泌された乳香樹脂を採取し、計量した結果、エスレルとジャスモン酸メチルの併用により、乳香樹脂の生成が大幅に増強された。また、ジャスモン酸メチル単独、サリチル酸ナトリウム単独、または両者の併用では、樹脂生成に影響がないことも明らかとなった。これらの結果から,エスレルとジャスモン酸メチルの併用による人為的な乳香樹脂生産増強の可能性が高いことが示唆された。
乳香は乳香樹の幹を傷つけると出てくる分泌液が固まったもので、アラブ世界では日常的に使われる重要な香料です |
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オマーン、スルタン・カブース大学のニュウコウジュと 共同研究者のアハメド博士(中央) |
対照区(左)とSTS複合処理区(右)での乳香樹脂生成の違い |