経産省「長期エネルギー需給見通し」に対するコメント
2008年4月5日 藤巻晴行
3月19日、経産省が
「長期エネルギー需給見通し(案)」
をとりまとめた。それによると、「 実用段階にある最先端の技術で、高コストではあるが、省エネ性能の格段の向上が見込まれる機器・設備について、国民や企業に対して更新を法的に強制する一歩手前のギリギリの政策を講じ最大限普及させることにより劇的な改善を実現する」ケースで、エネルギー由来CO2排出量が2020年に90年比で4%削減でき、そのためにはGDPの1%程度の負担(12年間で52兆円)が家庭や企業などに毎年かかることになる、としている。
この見通しには様々な問題点があると見受けられるが、最も重要な点を指摘しておきたい。
それは、石油や石炭の価格如何では、その程度の負担(省エネ投資)が逆に経済的利益をもたらす可能性がある、という点を見落としている(あるいは言及していない)ことである。「見通し」の試算では2015年頃の原油価格が80$/b、石炭価格が70$/t程度であると仮定しているが、これは非現実的である。原油価格も石炭価格も、平時であるにもかかわらずこの1年で2倍以上となり、原油価格は既に100$/b、石炭価格が130$/tである。需給が逼迫するこの先、何を根拠に現在より下がるとの見通しを立てているのであろうか。もし、原油価格を150$/b, 石炭価格を150$/tとし、現状に比べ年間2,000万tのCO2排出を(石油と石炭由来のそれを等量で)削減したとすると、2020年までの12年間で33兆円の輸入代金の節約となる。実際には化石燃料の運搬や精製にかかる費用も省けるため、家計や企業レベルではその倍程度の節約効果があるはずだ。
もちろん、それほどまでには価格は上がらないかもしれない。いずれにせよ、地球環境に全く配慮せずとも、化石燃料の価格如何では、省エネ投資が大きな見返りを生み出す可能性があり、実質的な差引の負担額は化石燃料価格に大きく依存することを明記すべきである。国民世論は炭素税の導入とその税収を元にした省エネ投資への大規模な補助金に納得するであろう。
もう一つ問題点を付け加えるとすれば、CO2排出削減は、追加的投資によらずとも、無駄な消費の削減によっても可能であることを忘れていることである。例えば4人家族がそれまでのオートマ普通車をやめマニュアル変速型や無段変速オートマチック(CVT)の軽自動車に乗り換えるだけでマイカー由来のCO2排出をほぼ半減できる。この場合、普通車を買い替えれば140万円かかるところを90万円で済ませられる。負担どころか50万円もおつりがある。やや窮屈にはなるが、なお家族4人が雨風をしのいで目的地に同じ時間でたどり着くことができ、実質的な効用の低下はわずかである。あるいは、自動販売機を減らしたところで、各自がステンボトルに入れて持参すれば、やはり温かい、あるいは冷たい飲物を飲めるのである。この場合も、全くコストをかけずに、むしろ150円を浮かせて省エネできる。
経済産業省の役割上、仕方ないかもしれないが、人口が減少するにもかかわらずGDPが2%成長を続けるという前提自体を見直す必要があるだろう。化石燃料の枯渇とそれにともなうスタグフレーション、軍事的緊張はおそらく気候変動より深刻である。世界が協力してできるだけ先延ばしするとともに化石燃料に頼らない社会を構築すべきである。
参考リンク
温室効果ガス 20年度最大4%削減 (朝日新聞)
需要増+豪の水害、石炭も急騰 電気代の値上げも (朝日新聞)
ピークオイル説を検証する by 本村真澄氏 エネルギー総合工学Vol28 No.2(2005. 7)