人と地球と財布にやさしいのはハイブリッド車よりマニュアル軽自動車

 
本文は2008年4月5日付 東京新聞「サタデー発言」に掲載
 
 最近、ハイブリッド車(HV)をよく見かけるようになった。政府もHVを自動車交通における省エネルギーの柱と位置付け、後押ししている1。しかし、本当にHVは省エネの鍵であろうか?実は、多数のユーザーからの実燃費報告を集約した統計によると、HVの燃費はマニュアル変速型軽自動車(以下MT軽)のトップクラスのそれとほぼ同等である2。意外かもしれないが、国交省が認定する公称燃費には充電池の活用に関する規定がないため、HVの公称燃費が過大評価されているのだ。もちろん軽自動車と普通車を比較するのは適切でない、という意見もあろう。しかし、多くの家族にとって、あれほどゆったりとした車内空間は必要だろうか。
 軽自動車は幅が狭く、やや窮屈ではあるが、その分歩行者や自転車を追い越す際に距離を確保できる。この先、自転車での移動を奨励する必要があるが、財政上の制約から自転車専用道の建設は遅々としたものになろう。より多くの自転車に路側帯を走ってもらうあたり、普通車や大型車は障害となる。運動エネルギーも小さく3、車同士の衝突の際に相手が死傷するリスクも減らせる。さらに、車体を製造するのに必要な資源も大幅に少なくて済む4。駐車スペースの節約にもなり、都市緑化の余地も増える5
 車を捨てられない人(筆者もその一人)が、それでも人や環境に優しい生活様式を心掛けたいのであれば、HVよりもMT軽に乗ることをお勧めする。5人以上の大家族であればMT軽を2台買えばよい。それでもHVより安い6。高価なHVの購入は見送り、太陽光発電など別の環境投資に振り向けた方が賢明だろう。
  1. 例えば、政府の京都議定書目標達成計画でHVの普及促進が掲げられている。補助金の例としては電動車両普及センターが経済産業省の委託事業として行っているハイブリッド自動車及び水素自動車等導入費補助事業
  2. 一般にMT車はオートマチック車(AT)よりも2割ほど燃費がよい。無段変速オートマチック車(CVT)も公称燃費ではMTやHVとぼ同等であるが、ユーザーによる実燃費報告ではMTよりやや小さい。また、CVTはMTに比べ一般に10万円以上高い。ここで浮いた費用を別の環境投資に向けるべきである。ギアチェンジ操作は渋滞でない限り面倒なものではない。運転中特に他にすることもないからである。渋滞時は確かに面倒であるが、それがまた燃料の浪費となる渋滞を避ける体感的動機づけにもなる。もちろんCVTも単なるオートマチック車よりはずっとよい。
  3. 例えば、アルト720kgに対しプリウス1280kg。運転者+荷物+ガソリンで120kg加えたとして、1.7倍の違いがある。
  4. 上の重量差が、使用される金属やプラスチックの量の違いを示している。さらに、HV(ハイブリッドカー)は製造過程がより複雑で、素材生産のみならず、組立過程でも一般車両より多くのCO2を排出する。右下の図の「軽自動車」は、ダイハツTANTOのサイトに掲載されているグラフをもとに、素材部分の排出量が重量に比例すると仮定して、素材生産部分については720/930(TANTOの重量930kg)を乗じたものである。「プリウス」については相対値で示されているメーカー情報を絶対値に換算の上掲載。
  5. 自治体は、軽自動車専用区画を設け、軽自動車に2割以上の割り引きをしている駐車場の固定資産税の一部を減免してはどうか。
  6. 紙面の都合で単純化して述べたが、じつは駐車料金の高い大都市に住む5人家族の場合、判断が難しい。デミオCVT(30km/L)やフィット(24km/L)のような5人乗り低燃費ガソリン車1台の方がいいかもしれない。

関連ページ:
時速20km社会へ | 長期エネルギー需給見通しに対するコメント

ちなみに:筆者が乗っているアルトの燃費

型式:スズキ アルト ABEF-S3 (2WD, 5MT)
これまでの平均燃費は22.7km/Lである。筆者の居住地は郊外で、通勤先も郊外であり、渋滞がほとんどなく、通勤時の信号待ちは1.5kmに1回ほどでしかない。通勤時は信号待ちを含め平均時速40km前後である。したがって、都市部では20km/Lを切るかもしれない。さらに、概ね10秒以上の信号待ちが予想される場合にアイドリングストップを行っている。平均乗員数は1.5人前後である。高速道路で約90km/hでほぼ一定で走行した場合にはおよそ26km/Lに達する。

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