多段流出法(Multi-Step Outflow Method)の種類
多段流出法は,テンシオメータ使用の有無と土壌水分保持曲線を独立に決定するかどうかで大きく4種類に分けることができます。本アプリケーションでは土壌水分保持曲線を独立に決定するものを個別型,そうでなく不飽和透水係数と同時に逆解析されるものを同時型と呼ぶことにします。以下に,それらの特徴を簡単にご説明します。
テンシオメータ使用・同時型
Eching et al.(1993)らが用いた方法で,もっともポピュラーな方法です。比較的短期間(通常24〜72h)に実験を終了させることができます。
唯一性(uniqueness)を確保するためには最適化されるパラメータの数を5個程度に抑えなければならないため,本ソフトウェアでは,土壌水分保持関数と不飽和透水係数関数の間でパラメータを共有することによりパラメータ数を一つ減らせるMualem-van Genuchten式に適用を限定しています。
未撹乱土壌の場合,圧力水頭測定位置が全体を代表しているのかどうかという疑問が残されます。
テンシオメータ使用・個別型
比較的短期間(通常24〜72h)に実験を終了させることができます。
下端圧力水頭の切り替え直前のテンシオメータの読みとカラム平均体積含水率を対応させることで土壌水分保持曲線を独立に決定するため,不飽和透水係数のパラメータを増やせます。
同時型と同様,未撹乱土壌の場合,圧力水頭測定位置が水平断面全体を代表しているかどうかが問題となります。
テンシオメータ不使用・同時型
van Dam et al.(1994)が用いた方法です。比較的短期間(通常24〜72h)に実験を終了させることができます。
間隙径のきわめて小さなセラミック版を用いれば,テンシオメータの使用が不可能な-900cm以下の低圧力水頭領域にも適用が可能です。
パラメータの唯一性(uniqueness)が弱い点が,この方法の問題点です。唯一性を高めるため,本ソフトウェアでは,Mualem-van Genuchten式に適用を限定しています。また,別の方法で測定した土壌水分保持データを追加することが推奨されます。
テンシオメータ不使用・個別型
水理学的平衡状態にほぼ到達していれば,
カラム中央の圧力水頭 = (下端圧力水頭の切り替え直前のテンシオメータの読み) - (カラムの高さ/2)
とカラム平均体積含水率を対応させることで土壌水分保持曲線を独立に決定できます。その結果,テンシオメータ不使用・同時型に比べ不飽和透水係数のパラメータを増やせます。
水理学的平衡状態にほぼ到達(流出がほぼ停止(0.5mm/d以下)した)した時点で下端圧力水頭を切り替える必要があるため,-600cm程度まで測定する場合,実験期間がやや長く(通常48〜120h)なります。